Japanische Fichte-Gesellschaft
日本フィヒテ協会


日本フィヒテ協会賞



【フィヒテ賞(第二部門)】

高田 純 氏

――受賞対象著作――
  • 『現代に生きるフィヒテ―フィヒテ実 践哲学研究』(行路社、2017年)
――受賞理由――
 高田純氏の『現代に生きるフィヒテ: フィヒテ実践哲学研究』(行路社、2017年)は、フィヒテの実践哲学・政治哲学を、ルソー、カント、フィヒテ、ヘーゲルの影響作用史という枠組みのなかで、とくに「人民主権としての共和制」という観点から位置づけなおした著者の長年にわたるフィヒテ研究の集大成である。フィヒテの実践哲学全体を、内外の研究成果を踏まえつつ、テクスト内在的にテクスト間のコンテクストを読みとるという地道な作業を積み重ね、包括的に捉え直したこと自体、高く評価されるべき大きな成果である。著者の分析視点のするどさは本書の随所にあらわれているが、委員会ではとくにつぎの三点が高く評価された。第一に、ペスタロッチ思想の知識学への受容の問題を教育論という特殊領域から救い出し、フィヒテ実践哲学全体の中核に据えて、「陶冶」と「教育」を「自由」と「強制」として捉えることによって、知識学に始まるフィヒテの自由の哲学の構造とその発展のダイナミズムを可視化したことである。第二に、「生きること」が「自由な活動の最高かつ普遍的な目的」であるとする『自然法論』と、「自由に」「人間らしく」生きることが「人間の権利と使命」の要求であり、それが「労働に対する権利」を導きだすとする『閉鎖商業国家』との連続性が論理的かつ実証的に示され、国民の人間らしく生きる権利を保証する装置としての国家が立ち現れるとともに、まさにその瞬間に自由と強制の緊張関係が生まれることが示唆されている。ここにフィヒテ解釈の研究史上のアナクロニズムを克服した著者のフィヒテ解釈の到達点が示されている。第三に、「閉鎖商業国家」における反グローバリズム的な経済の可能性についての論及や中期における自我と身体と他我に関する行為論・共同体論に対する解釈作業は、反時代的なかたちでフィヒテ哲学に内在するアクチュアリティを発掘することにつながったといえる。表題「現代に生きるフィヒテ」の根拠となっている。
 選考委員会は、以上の評価のもとに、本書が本年度のフィヒテ賞にふさわしい業績であると判断した。