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本論文は、「超越論的自由」と「選択意志の自由」の連関がいかに明らかにされているかという問題に絞って、Nova Methodoの論点、とりわけ「自我の目的論的定立行為」の思想を取り上げたらのである。櫻井氏はその連関を、「純粋
意志」が「最初の目的概念」を介して「経験的意志」に具体化する過程として、入念に析出しており、そこには難解なフィヒテの論述に対する一定の理解力が示されている。また自我の目的定立的行為の根拠を理性的存在としての自我の自発的な働きに持つことができるとする自我の意志と自由及び目的概念の違関は、後期思想における絶対者とその現象、図式及び意点の関連を予感させるものがある。その意味で、本論文は、中・後期思想の萌芽を初期知識学に指摘するという成果を挙げていると見ることができる。
ただし表現の生硬さや論証の飛躍が見られ、問題の所在が同時代の論争史のなかで的確に捉えられているとはかならずしも言いがたく、テキストの内容の整理に留まっているという印象を否めない。とはいえ本論文は、清新な新人の登場を告げるものであり、フィヒテト究者としての今後の研鑽と成長が大いに期待される、研究奨励賞にふさわしい論文である
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