Japanische Fichte-Gesellschaft
日本フィヒテ協会


日本フィヒテ協会賞



【日本フィヒテ協会研究奨励賞】

栩木 憲一郎氏

――受賞対象論文――
  • 「フィヒテにおける永遠平和に向けた政治思想の展開について」
    (『千葉大学人文社会科学研究』第24号, 2012年)
――受賞理由――
 審査対象となった栩木憲一郎氏の論文「フィヒテにおける永遠平和に向けた政治思想の展開について」は、フィヒテがその政治思想、特に国際関係に関する思想において、カントの『永遠平和のために』から、国際機構の創設とそれによる法的正義の実現、とりわけ「啓蒙された強力な平和連合の要となる共和国」への期待を一貫して受け継いでいることを、 歴史的かつ体系的に明らかにすることに成功した作品である。また、従来の解釈の批判的克服を試み、フィヒテが当初の世界市民主義からナショナリズムに転向したという見解を退け、1812年の『法論の体系』などでも当初のカント的平和思想を維持していることを主張した独自性ある作品である。こうした主張を正当化するための文献的裏づけは確かなものである。ただし、国際関係論の展開を論じる前提として、フィヒテの国内政治論の展開をも見極める必要があることが指摘されるべきであり、また、テキストに対して丁寧に論述しようとするあまり、論文に占める引用文の分量が不必要に多い点が惜しまれる。今後はこれらの点を反省しつつ、これまで継続してきたフィヒテ研究を、さらに展開していくことが期待される。以上の理由から、本年度の研究奨励賞を栩木憲一郎氏に授与することに決定した。