Japanische Fichte-Gesellschaft
日本フィヒテ協会


日本フィヒテ協会賞


フィヒテ協会賞】

第26回大会当当日に、2010年度のフィヒテ協会賞(研究奨励賞・若手対象)授賞式が行われ、受賞者である宮本敬子氏に、賞状、賞金、副賞が授与された。

――受賞対象論文――
  • 「フィヒテにおける言論の自由について」(『フィヒテ研究』第17号)
――受賞理由――
   宮本敬子氏は一橋大学大学院に在学中に、カント、メンデルスゾーン、ドイツ啓蒙思想などを研究し、今年3月には「ドイツ後期照明思想における「理性の公共的使用」について」というテーマで一橋大学で博士(社会学)の学位を取得した。また2008年には日本フィヒテ協会で、「越境するフィヒテ、――啓蒙主義者としてのフィヒテ」という題目で研究発表を行なった。このように、宮本氏はカント、フィヒテをドイツ啓蒙主義の流れの中で捉えると同時に、その中から「理性の公共的使用」という現代的思想を汲み取ろうとしてきたが、本論文でも、初期フィヒテの論文「思想の自由回復の要求」を取り上げて、そこに啓蒙思想家としてのフィヒテの思想史的意義を明らかにしようとした。本論文において宮本氏は、フィヒテの「言論の自由」の主張が、民衆と後見人を分かつ「絶対的な境界線」を認めず、「誤謬を広めること」すら「許可」すべきだというものだと指摘し、その限りドイツ後期啓蒙主義のパターナリズムの限界を批判し、カントの啓蒙概念を先鋭化したものだと高く評価した。宮本氏の論旨の展開は説得的であり、文章の表現も堅実である。従来、ベルリン啓蒙思想に対する研究は必ずしも多くなく、またそれに対するフィヒテの関係を考察したものも、殆どなかったように思われる。その意味で、宮本氏の論文はユニークであり、この方面の研究にとって一つの標準となりうる視点を提供し、一般に「言論の自由」についての議論に寄与するところも大きいと言える。ただし宮本氏のフィヒテに関する論文が他にない点に、物足りなさを感じさせるところはある。しかし扱われている基本概念は通俗的著作と理論的著作を連携させる可能性をもつものであり、今後の発展を期待できるように思われる。以上の理由により、本委員会は今年度の研究奨励賞を宮本敬子氏に授与することに決定した。
2010年11月
日本フィヒテ協会賞選考委員会